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ダイアー・ストレイツの「Sultans of Swing」聴き比べ

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マーク・ノップラーMark Knopflerといえば、かつてダイアー・ストレイツDire Straitsの作曲、ボーカル、ギターを担当していた才覚に恵まれたアーティストです。中でも指で弦を弾く演奏スタイルは、マークをマークたらしめる最大のポイントです。

Sultans of Swing(邦題:悲しきサルタン)で聴かせてくれるストラトのペキペキとした音が紡ぎだすフレーズは、オンリーワンな世界観を創りだしています。

ただ、私は85年になってからの彼の突然の変容にいたく驚きました。大ヒット曲、Money for Nothingでは、彼のトレードマークだったペキペキギターを封印して、レス・ポールのハムバッキングマイク独特の粘りのあるオーバードライブサウンドで攻めています。

どういう心境の変化なのでしょうか。この曲が収められているアルバム「Brothers In Arms」以前は、3枚のスタジオ・アルバムを出していますが、それらのアルバムでは、ネバネバ系オーバードライブを聴くことができません。以後、彼は曲やフレーズによりペキペキ系とネバネバ系を使い分けるようになります。

●Sultans of Swing聴き比べ(文末にApple Musicのプレイリストへのリンクがあります)

この歌は、1人の語り部が、ロンドンのお店で演奏する「サルタンズ」というジャズバンドのことを語る形式で綴られています。英語に弱い私的には想像するしかないのですが、歌詞が醸し出す世界観とマークのボソボソっと歌う感じがピタリとハマって多くのリスナーの心を掴んだのかもしれません。訳詞はこのサイトで閲覧することができます。では、この名曲をライブ盤で聴き比べてみましょう。

・Sultans of Swing / Live at the BBC

この音源では、ペキペキというより、クランチ系の音色です。というより、フレーズによっては、クランチを通り越してオーバードライブ気味になっています。1978年にロンドンBBCスタジオで「BBC Live in Concertシリーズ」用に録音したものだそうですが、時期的には、デビュー間もないだけに、オブリガードやソロがレコードに比較的忠実で初々しさに溢れる演奏です。

ただ、マーク的には、この音源の歪んだ音は好みではないかもしれません(想像ですが)。新人なので使用アンプに注文をつけることができず、スタジオに用意してある不本意なアンプをあてがわれてしまった結果なのかもしれません(想像ね)。

・Sultans of Swing / Alchemy

1983年7月にロンドンのハマースミス・オデオンでライブ録音された音源です。とてもスレた演奏に感じます。地方から出てきた純朴な少女(少年でもいいけど)が都会のギスギスした人間関係に揉まれて、世渡りが上手になって人に取り入ることを覚えた的な…。

歌の方も経験を積んでこなれ感が出てます。テクニック的に遊びが多くなって余裕かまして歌っている感じです。このままいくと、上田正樹「Yes My Love」みたいな感じで、恥ずかしい合いの手が入るかと期待して聴いてましたが、さすがにそれはありません。

ギターの音色は、本来のペキペキ系です。この頃は、売れに売れた絶頂期なので機材にもお金をかけることができ、ライブでも歪を完全追放できたのかもしれません(想像ね)。余談ですが、ライブで歪を追放、で思い出すのは、寺内タケシさんですね。ギターの音が歪むことを微塵も良しとしない“神様”は、クリアな音を追求して2000ワットの大きなアンプを自作したという逸話が残っています。

この音源では、新メンバーやサポートミュージシャンなどが加わりライブ用に演奏が強化されています。中でもキーボード類の活躍が目立ちます。終盤ではシンセとギターでハモるという小芝居的な芸も加わっています。

私的にこの演奏で嫌いな点がひとつあります。無意味に手数の多いドラムです。プログレ系ドラマーの手数の多さとは異なり、そこでその手数はないでしょうって思うところが随所にあります。

・Sultans of Swing / Live At the Royal Albert Hall

1996年のロイヤルアルバートホールでのライブです。80年代後半に一旦解散して90年代になって再結成したダイアー・ストレイツですが、歳を重ねて肩の力の抜けた余裕のパフォーマンスです。ギター・ソロもかなり変化しています。ただ、個人的には、面白く無いギター・ソロです。レコードのソロを聴き慣れているだけに、やはりレコードのはつらつとしたフレーズの完成度の高さがかえって際立ちます。

・Sultans of Swing / YouTubeから2015年のライブ演奏
YouTubeに2015年のライブの模様があがっています。レコードデビュー当時の赤のストラトなのでしょうか? そのわりには綺麗です。ヘッドの部分をよく見るとサインらしきものが書かれているので、フェンダーのMark Knopflerシグネチャモデルなのかもしれません。リアピックアップのポジションで弾いてます。

ソロの終盤には得意の三連の速弾きを見せますが、指ピッキングのタイミングが合っておらず精彩を欠いています。この日だけ不調だったのか、それとも歳には勝てないのか…。ファンとしては、いつまでも完璧な演奏を期待してしまいますが、わがままというものでしょうか。

●スティングの友情が印税トラブルを誘発したMoney for Nothing

・Money for Nothing / Brothers In Arms

その後、Dire Straitsは、前述のように「Money for Nothing」という名曲を世に送り出します。MTVを揶揄った歌なのに、大ヒットしたのはMTVのおかげというなんともアイロニーに富んだ逸話のある曲です。マーク自身は、歌の内容通りミュージック・ビデオが大嫌いだったそうですが、マネジメント側が必至に説得して作ったとか。

共作者としてスティングの名前が入ってます。カリブ海のモントセラト島のスタジオでレコーディング中、たまたま休暇でこの島を訪れていたスティングが録音に参加したそうです。

スティングは、共作者としてクレジットされることを断ったみたいですが、スティングのレコード会社が、曲の歌い出し部分の “I want my MTV”がThe Policeの「Don’t Stand So Close To Me」に類似しているということで、印税を要求したそうです。

スティング本人は「近くにいるから手伝うね」「いいねいいね」てな感じで軽い気持ちでお手伝いした事が、利益を最大化することしか考えないマネジメント側の思惑で話がこじれたわけですね。スティングとマークの親交その後も続いているようなので、本人達同士が喧嘩したわけではないのでホッとします。

●流行りの隔離トラック音源が登場

最近、著名曲の隔離トラック音源がYouTubeに続々と登場していますが、Sultans of Swingのギターも聴くことができます。これを聴くと、驚いたことにアンサンブルの中では聴き分けることができなった、フレーズの合間の合いの手的な空ピッキングや弦を軽く殴打してタイミングをとる様子が生生しくわかります。じっくり聴けば聴くほどに、三本の指をどのように使ってピッキングしているのか悩むばかりです。

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Junichiro Yamasakiのダイアー・ストレイツの「Sultans of Swing聴き比べ」を @AppleMusic で聴こう。


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