年初に逝ってしまったデヴィッド・ボウイ、彼の死後、この偉大なロック・スターのアルバムを折にふれて深掘りし聴き直していたら、「Space Oddity (40th Anniversary)」などという、マニアにはたまらないアルバムが存在していたことを知りました。
その名の通り69年に彼がブレークするきっかけとなった「Space Oddity」のいろいろなバージョンを集めたアルバムです。特筆すべきは、アルバムのトラック5〜12には、マルチレコーダーの独立トラック音源が収録されています。
私は各トラックをiPadのGarageBandに読み込んで自分だけのミキシングをしたり、個別のトラックを聴きこんで楽しんでいます。新鮮な発見もありSpace Oddityという名曲を真髄まで味わうことができます。
以下、各トラックの聴きどころををご紹介しましょう。
まず、全体を通して、Lo-Fi感に溢れたアナログテープ独特のノイズ(テープサチュレーションやヒスノイズ)が耳に心地よ良いのです。さらに全体を通して聴こえてくるゴースト(無音部の磁気の転写)が懐かしくも清々しい趣を醸しています。現在のテクノロジーを駆使すればもっと綺麗に「清書」することができたのでしょうが、このアルバムではあえてそれを行わなかったと思われます。
●7. Acoustic Guitarのトラック
Acoustic Guitarトラックは、12弦ギターの心地よいシャリシャリ感を堪能できます。途中のブレーク部分では、タイミングを取るためにヘッドフォンではなくスタジオのスピーカーからドラムのフィルを流しているのでしょうか、そこだけやけに大きな音でドラムが聴こえてきます。
●8. Mellotronのトラック
1分30秒までは無音ですが、そこから先は、メロトロン好きにはたまらないメロトロンワールド全開の桃源郷が開けます。音色は3violinsだと思います。ロー・ファイでノイズにまみれたメロトロンサウンドの魅力を堪能できます。
おそらくモーターが原因かと思われる低い周波数の電気ノイズが終始鳴っている他、チリチリとしたノイズ、音程の揺れ、強く打鍵した際のヘッドが接触する瞬間の独特のアタック音、テープ・リターン・ハブの引っ掛かりによる音の瞬断など、これほどまでにメロトロンを堪能できる音源は他にはありません。
そして最後の最後には、ボウイによる調整室からのトークバック「ベリーナイス!これいただき」という声も入っています。ちなみにメロトロンを演奏しているのが、リック・ウェイクマンであることはあまりにも有名ですね。
●9. Backing Vocal, Flute and Cellosトラック
歌い出す前、イントロ部分の吐息、唸り、リップノイズが生々しいです。目を閉じてヘッドフォンで聴くと自分が調整室にいて、ガラス1枚を隔てたブースの中にボウイが佇んでいるかのような錯覚に陥いるのです。
●10. Stylohone and Guitarトラック
いきなりGuitarのエフェクター(ユニヴァイブか、マエストロのフェーザーあたりか?)シュワシュワしたノイズから入ります。また、あのブーブーとしたブーミーな音がStylophoneだったこともこの音源で知りました。
●11. Lead Vocalトラック
このトラックは圧巻です。イントロ部分では、指を使って口で音を出して遊んでいるのでしょうか、ポコポコという音とかすかな笑い声が聞こえます。歌が始まるとボウイがかけたヘッドフォンから微かに漏れるオケの音や椅子の軋む音などが生々しいくもあり、涙を誘います。
●12. Main Backing Vocal Including Countdownトラック
ボウイ自身によるメインのバックボーカルトラックです。イントロ時に変声を出して遊んでいます。それによりボウイ自身が苦笑っている様子が聞き取れます。最初のヴァースを終えた後に入るカウントダウンの優しい発音にボウイの微笑みが脳裏をかすめ涙を禁じえません。